FROM FRONT フロントより

事務所の近所の
わりと最近できた中華屋さん
おいしいんだけど
なんか
なんかがなんかな
……が残るんです。

炒飯は
パラっとシンプルで
おいしい。
おいしいっちゃおいしんだけど
なんか……を感じる。
どこかのホテルで
経験を磨いてきた方かもしれない。
そう感じさせるものはある。
でも、
やっぱり、
なんか……。

その気持ちの空欄に
なにが当てはまるのかわからない。
ただ、
いちばん最初に感じたのは
さみしい。だった。

スープがついてなかったから?
いや、それだけでもなさそう。
おいしさを薄めるかのように
さみしいが漂う。

せっかく
技術もあるし
おいしいものをつくっているだろうに
味気ないくらいの
なんか……が際立つ。

なので
あまり行くことはないのだけど
今日は時間がなくて
久しぶりにさくっと入ってみた。

初めて
厨房が目の前にある
カウンターに座って
なんとなくだけど
わかったような気がする。

店のスタッフは、男性2人のみ。
調理とホール担当の分業。
カウンター前が
オープンキッチンになってるので
その2人の様子がまるっと見える。

返事がないのね。
会話もなくて
あるのは、沈黙。

ホールの男性が
オーダーを通すとき
ただ、メニュー名を言う。

焼きそば……
日替わり……
オーダー入りましたとか
お願いしますもない。
へいたんな音で
なんなら語尾が下がっていて
ただメニュー名を発していて
その余韻に……の気配を感じる。

そして、互いに目を見合わすことなく
調理の人も返事をしない。
黙々とつくっている。

その黙々とつくっている様子を
ホールの男性は
手持ちぶさたなのか
ちらっちらっ見ている。
そのときさえも
…………がある。

なんか……
それがずっとある。
2人のあいだに
カウンターの上に
店の空間に
つくった料理に
後味に
すべてにある。宿っちゃってる。

そりゃ、
さみしいよね。

ぼくは、伝えよう。
なんでもないことも
あたりまえのことも
特別なことも
ぜんぶ大切だよ。

イラシャイマセーー!
やたら声のいい
中華のマスター思い出す。
あそこ、うまいんだよな。
今日もごきげんでありましょう。